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『マキアヴェッリ語録』 塩野七生 (11)





『マキアヴェッリ語録』 (11)





『マキアヴェッリ語録』 塩野七生 新潮文庫
平成4年11月25日 発行


目次
第1部 君主編
第2部 国家編
第3部 人間編






マキアヴェッリ(日本ではマキャベリと表現されることが多い)
は『君主論』の著者として知られ、「マキャベリズム」が
人口に膾炙しています。


その思想を端的に表現する言葉は、
「目的は手段を正当化する」
です。


目的のためならどんな手段を講じてもかまわない、と解する
ことが多いですね。


実は、私もこの書を読むまではそのように解釈していました。
言葉を文脈の中で解釈せず、言葉が独り歩きすることの怖さは、
風説の流布でも経験することです。


福島第一原発事故以後、周辺にお住まいの方々は風説の流布
に悩まされ続けています。拡散した誤情報はさらに誤情報を加え、
拡大していきます。容易に訂正されることはありません。



話しを戻しますと、マキアヴェッリの実像はどのようなもので
あったのか、そして「目的は手段を正当化する」と言っている
ことの真意は何だったのか、を知りたいと思いました。


先入観を取り払い、大前研一さんが言う、「オールクリア
(電卓のAC)」にしてマキアヴェッリの説くことに耳を傾ける
ことにしました。


マキアヴェッリは、1469年5月3日にイタリアのフィレンツェで
生まれ、1527年6月21日に没しています。15世紀から16世紀
にかけて活躍した思想家です。500年位前の人です。


ニッコロ・マキャヴェッリの肖像画

ニッコロ・マキャヴェッリの肖像画 Wikipedia から
 


塩野七生(しおの・ななみ)さんは、「まえがき」に代えて
「読者に」で次のように記しています。塩野さんが解説
ではなく、また要約でもなく、「抜粋」にした理由を説明
しています。


尚、10ページ以上にわたる説明からポイントとなる言葉を
「抜粋」しました。




 この『マキアヴェッリ語録』は、マキアヴェッリの思想の

 要約ではありません。抜粋です。

 なぜ、私が、完訳ではなく、かといって要約でもなく、

 ましてや解説でもない、抜粋という手段を選んだのかを

 御説明したいと思います。

 第一の理由は、次のことです。

 彼が、作品を遺したということです。


 マキアヴェッリにとって、書くということは、生の証[あか]し、

 であったのです。


 マキアヴェッリは、単なる素材ではない。作品を遺した

 思想家です。つまり、彼にとっての「生の証し」は、今日

 まで残り、しかもただ残っただけではなく、古典という、

 現代でも価値をもちつづけているとされる作品の作者でも

 あるのです。生涯を追うだけで済まされては、当の彼自身

 からして、釈然としないにちがいありません。


 抜粋という方法を選んだのには、「紆曲」どころではない

 マキアヴェッリの文体が与えてくれる快感も、味わって

 ほしいという私の願いもあるのです。そして、エッセンスの

 抜粋ならば、「証例冗漫」とだけは、絶対に言われない

 でしょう。


 しかし、彼の「生の声」をお聴かせすることに成功した

 としても、それだけでは、私の目的は完全に達成された

 とはいえないのです。マキアヴェッリ自身、実際に役に立つ

 ものを書くのが自分の目的だ、と言っています。 

 

  (前掲書 「読者に」から PP.3-5、14)




マキアヴェッリの名言をご覧ください。


第1部 君主編



 一軍の指揮官は、一人であるべきである。

 指揮官が複数の人間に分散しているほど、有害なこと

 はない。

 それなのに、現代(16世紀)では、国家はこれとは反対

 のことを行なっている。行政面にいたるまで、複数の人間

 にまかせるという有様だ。

 結果は、実害をともなわずにはすまない混乱である。

 ゆえに、わたしは断言する。

 同じ権限を与えて派遣するにしても、二人の優れた人物を

 派遣するよりも、一人の凡人を派遣したほうが、はるかに

 有益である、と。


                    ―― 『政略論』 ――

                              (PP.123-124)

         (031-1-0-000-508)
 



 


 一度でも徹底的に侮辱したり、手ひどい仕打ちを与えた

 ことのある者を、重要な任務につかせてはならない。

 なぜならこの者は、この機に一挙に悪評を挽回[ばんかい]

 しようとしてか、あるいは、どうせ結果は悪く出ても自分の

 評価はこれ以上悪くなりようがないと思うかして、いちか

 ばちかの勝負に出やすいからである。

 これでは、任務を与えた者にとって、悪い結果を生むおそれ

 が多すぎるのだ。

  
                    ―― 『政略論』 ――

                              (P.124)

          (032-1-0-000-509)
 






 なにかを為[な]しとげたいと望む者は、それが大事業で

 あればあるほど、自分の生きている時代と、自分がその中

 で働かねばならない情況を熟知し、それに合わせるように

 しなければいけない。

 時代と情況に合致することを怠ったり、また、生来の性格

 からしてどうしてもそういうことが不得手な人間は、生涯

 [しょうがい]を不幸のうちにおくらなくてはならないし、

 為そうと望んだことを達成できないで終わるものである。

 これとは反対に、情況を知りつくし、時代の流れに乗ること

 のできた人は、望むことも達成できるのだ。
 

                    ―― 『政略論』 ――

                              (P.125)
                              
          (033-1-0-000-510)
 








ポイント

企業においても、指揮命令系統が複数あるために、
どの指示に従うのが適切であるのか、分からないこと
があります。


これはまさに、マキアヴェッリが指摘している、
「一軍の指揮官は、一人であるべきである」
という内容そのものです。


政界や官界、財界においても、それは同様です。
指揮官は一人でないとならないのです。


「共同代表」や「双頭経営」と言うと、聞こえや見栄えが
良さそうですが、実態は混乱が渦巻き、いずれ空中分解
する可能性が高い、と言えます。


日本維新の会も例外ではありませんでした。
橋下徹前大阪市長と石原慎太郎氏が、日本維新の会の
共同代表に就任した際にも、無理だと実感しました。


一方は護憲派で、他方は改憲派で、言わば「水と油」の
ような存在でした。混ざり合うはずがなかったのです。


橋下、石原両氏が共同代表に就任後、日本維新の会の
勢いは急速に衰えました。日本維新の会が割れてしまう
のは時間の問題でした。




キーセンテンス

情況を知りつくし、時代の流れに乗ることのでき
た人は、望むことも達成できるのだ


「時代の寵児」という言葉が、新聞や雑誌に踊った時代が
ありました。数十年前のことです。


時流に乗った人物ということができましょうが、本人が本当に
そうであったかどうかは、後世の人間によって評価されます。


塩野七生さんの『ローマ人の物語』を再び読み始めましたが、
ローマ1000年の歴史から学ぶことが多くありそうです。
英雄たちはどのような政治を行ったのか、英雄たちの生き方
を塩野さんが活写しています。


塩野七生さんと五木寛之さんの対談集
『おとな二人の午後』
(世界文化社 2000年6月10日 初版第一刷発行)
の中で、五木さんと塩野さんは次のように語って
います。歴史についての考察です。


 五木

 歴史はフィクションなんだと考えたほうがいい

 というふうに考えているんです。後年の人たちが

 再構築して、ありのまま構築できるってことは

 ありえない。その個人のキャラクターを通して、

 その人がつくり上げるものだから、歴史がその

 ままイコール事実であるっていうふうにとらえる

 より、歴史は物語なんだと思ったほうが正しい。



 塩野

 私、学習院を卒業するとき、こう言われたんです、

 君が考えているのは歴史ではないって。

 いまだに覚えている。



 五木

 ぼくは思うけど、塩野さんが書かれているように、

 歴史は人間ドラマなんですよ。想像力の世界。



 塩野

 ヨーロッパには私みたいな、小説でもなければ、

 歴史学でもないという分野は確実にあって、

 ちゃんと認められていますね。
 

 (前掲書 PP.224-225)










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